2006年8月号 掲載
ここ数年、九州の蔵元が造るお酒が、全国各地で大きな人気を博したのは、もちろん、九州のお酒が美味しいからであるのだが、それに加えて、日本人の心の奥底に眠る、故郷に対する憧憬が、これらのお酒に見えるからではないか。大きな山、清く流れる小川、モクモク上がる入道雲。幼い頃、麦わら帽子をかぶり、虫取り網を持ちながら駆け回ったあの風景。遥か数十年前に見た懐かしい風景が、九州のお酒に漂う香りから甦ってくる。お酒というのは、おしなべて造られた土地の風土の香りを有しているものであるが、九州のお酒には、とりわけその香りが強く感じられるのである。 世知辛い世の中に疲れた都会の人々が、しばしの安らぎを求めて、お酒を飲む。そんな時に、九州のお酒は、懐かしい故郷を思い起こさせてくれる。九州出身の人はもちろんだが、それ以外の人々でも、ノスタルジアに浸ることが出来るのは、実に不思議なことだが、これは事実なのである。 なぜ、、九州のお酒は、こんな不思議な魅力を持っているのであろうか。蔵元の人々の話から、その秘密が見えてくるかもしれない。