今宵の雑学は酒の肴

 
  赤坂の焼きトン ―― Pork B.B.Q. in Akasaka

絵と文 柄長葉之輔

秋も深まる夕刻ともなると、夏の明るさとはうって変わって、早くから一杯呑んでも罪の意識を感じない、程よい暗さになっている。赤坂には場所柄、政治家ご用命料亭や高級クラブやバーもあり、ちょっと垢抜けた町であるが、その赤坂のど真ん中、田町通りの交差点の一角。
「ハイ! いらっしゃい…、今日、間違いなく、来はると思ってました…」と、看板娘のみきちゃんが明るい声で迎えてくれるのが、立ち飲み焼きトン〔三六〕である。嘘でもこんな言葉をかけてくれると、疲れたおじさんたちは単純に喜んでしまうのであるが、先ず冷たいおしぼりを渡しながら、「いつもの黒ラベルですね。それと、自家製冷奴、ネギと鰹節多めですね…」とハスキーなテンポのいい答えで返ってくる。
みきちゃんは生粋の浪速っ子。父親は大阪駅構内で飲み屋をやっている一人娘で、詳しくは知らないが、大阪転勤の東京男に惚れて、追っかけて上京してきたらしい。商売人の町大阪の血か、父親譲りか、実に気が利くし、全ての動作に無駄がない。なでしこジャパンの沢選手のように、グランド一杯に駆け回り、カウンターからフロアへ、狭い調理場からカウンターへ実に変幻自在。
年季の入った藍染暖簾をくぐると、薄暗い大正ロマン風のレトロ調の店内。そのど真ん中に焼き場を囲んで大きな木製のカウンター。荒削りのフローリングには立ち飲み用丸テーブルが置かれている。陽がとっぷり暮れる頃には、焼きトンとたばこの煙が白色電気の薄明かりにもうもうと漂い、サラリーマン風呑兵衛たちで一杯。赤坂と言う場所柄、お洒落な仕事帰りのOLや、近隣のホテル滞在の初老の外人カップルも串に刺さった焼きトン(ポーク・バーベキュー)を楽しんでいる。
「それじゃー、塩タンとタレシロをお願い…。えーと、それと自家製スモークベーコン」中央の焼き場にいる店長が、備長炭を足しながら、「ハイ、塩タンは肉厚薄めで、タレシロはカリカリ焼きですね…」みきちゃんとともにここにいる店長をはじめ大学生のバイト君に至るまで、実にしつけが行き届き、のりもいいのである。
厳選した上州焼きトンの美味しそうな香りと喧騒の中で、ふと外に目をやると「三六」と描かれた暖簾が秋風に絡まっていて、もう秋もかなり深まって来ている。
 焼きトンや 暖簾絡まる 秋の暮れ
                   酔宵子



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